血塗れの身体で佇んでいる少年の姿は、この生々しい光景には酷く不釣合いで。だけど、ぞっとするくらい美しく見えた。

 まるで、現世のものではないかのように




鬼こごめ




 その光景をはじめて目の辺りにした瞬間、身体が強張り声が自然と上擦った。

「沖田、隊長…?」

 彼の強さは耳にしていた。
 道場での稽古でなら何度も自分でその腕前を目の辺りにしていたから、分かっていると思っていた。真剣を持つ、『斬り込み隊長』としての姿を間近で見た事は今までなかったけど、きっと其の延長みたいなものだと、そう思っていたのだ。事実目の辺りにする瞬間までは。
 だけど実際は、刀を振るう彼の姿は、決してそんな生易しいものではなく、もっと凄まじく怖ろしいものだという事を知った。

 其れこそ、仲間内ですら恐れを抱かせる程の

「あァ、山崎か」

 我に返ったようにそう呟いた彼も刀も、それを握る手も血に塗れている。隊服は黒いから分からないが、きっと同じような状態なのだろう。身を濡らす其れは全て彼自身のものではなく、斬った者たちの血だ。
 山崎も抜刀していたが、斬ったのは殆どが沖田一人の手によるもの。
 沖田の足元には、幾人の攘夷浪士達が横たわっている。いや、『浪士だった者達』の方が正確か。既に全員絶命しているだろう、ぴくりとも動かない。
「ヤバいなあ、つい全員殺っちまったィ。土方さんに怒鳴られっかなァ」
 嫌だなァ面倒くせえ、と沖田は呟き、足元のそれらをを特に何の感慨も無さそうに一瞥したあと、その場から動かない山崎を怪訝そうに見た。

「やまざき…?」
「あ、その…お怪我は、ありませんか?」

 沖田が怪我などしている筈が無い事は、山崎自身、此の場に居合わせてたのだから重々承知していはいたが、他に何と言ったらいいか分からなくてそう口にしていた。
 ゆっくりと山崎が顔を上げると、色素の薄い朽葉色の目とかち合う。
 まだ何処かあどけなさの残る、少年の顔。

「無ェよ、んなモン。お前こそどっか斬られでもしたのかィ?」
「いいえ?」

 でもその姿は、誰のとも分からない血に染まっている

「沖田さ」
「だって」

 一歩近づき、沖田は血に濡れてない手を伸ばして、山崎の頬に触れた。
 ひやり、と触れるその手は、驚くほど体温がなかった。

 ひとが死ぬのを見るのも、まして斬られるのを見るのも、これまで幾度となく経験していた。
 山崎自身人を斬った事が無いわけではない。なのに、

 目の前の少年を見たら、どうしようもなく



「お前、どっか痛そうな顔してる」





 はじめて、それが恐ろしくて哀しいことなのだと、感じた






2006.9.17




山崎、総悟の仕事っぷりを見て慄くの巻(台無しな説明)、
年下の総悟か血生臭いことを躊躇いも無く、疑問にも思わずやれるという事が
逆に危なっかしくて痛々しいというか、護ってあげたいというか、そんなイメージ。
そもそも監察方の山崎がなんで現場に居るのかが凄い不自然だ。