子供のころ
 このひとは本当に強そうで、なんでも出来るように見えた


 まあ俺より大人っていうだけでも、そう見える要素は十二分にあったわけだけど
 それだけじゃなくて


 でも、気付いたのはいつだったかな

 この人は俺が勝手に思ってた程強くなくて
 いや、確かにね喧嘩とか、剣の腕だけ見れば強かったわけなんだけど
 そういう腕っぷしの話じゃなくてさァ
 もっと別の…上手く言えないけど内面とか経験とか、そういう奴?

 でも子供だった頃の俺には、この人が凄く強い大人に見えてたもんだから
 いつも余裕そうで、なんでも分かってるんだと思ってた
 だからこの人にかかれば何でも出来ちまうんじゃないかと
 出来ないことなんてないんじゃないかと、そんな風にまで思ってたんだ
 それで近藤さんや姉上の隣に立っても、凄くしっくりして見えて
 そんなんじゃ、子供の俺には端から到底勝ち目が無いじゃないかと
 勝負にすらならないじゃないかと思ったくらいで
 だからこそ俺はこの人が憎らしくて嫉ましくて仕方なかったんだろうけど

 実際のところ、そんなん俺の勝手な勘違いだった訳で
 実は結構この人は中身いっぱいいっぱいなのだ、いつも
 近藤さんとはまた全然別の意味で、だ

 別段器用でもなんでもない癖に、なんでも自分でやろうとして抱え込むし
 抱え込む割には全然上手く捌けないもんだから
 いっつもいろんなことに雁字搦めで、すぐ身動き出来なくなっちまう
 持ちきれないなら持ちきれないと素直に言えばいいのに
 そんな事が言える性分じゃないから、結局どうにも出来ないし
 いい加減、自分の許容量くらい真っ当に把握しておいた方がいいんじゃないだろうか
 俺にも、誰にもバレてないと思ってるんだろうけどさ

 はっきり言って どうしようもないと思うし
 面倒臭い人だ、としか言い様がない
 逆に言えば、勝手に色々幻想見ちまってて悪かったかなァ、とも思う

 まあ、今の
 ちっと悪い言い方しちまえば、多少メッキが剥がれたくらいのこの人の方が
 俺としてはやりやすいし、全然いいんだけど


「なんだよお前、さっきから人の事ジロジロ見て」

「いいえェ、なんでもありやせんよ」

「見てるんなら手伝え」

「かったるいから嫌でさァ」

「…テメェ」

「机に向かってるのは性に合わないんでねィ」

「合うとか合わないとかいう話じゃねえだろーが」



 ああ、なんて世話の焼ける大人だろう


 そう思ったら無性に可笑しくなってきて、つい笑いが零れてしまった

 それを見た目の前の全身黒づくめの大人は、苦虫を噛み潰したような
 心底嫌そうな顔をして俺を睨み付けた





(今はまだ 気付かない振りをしていてあげましょう)







白粉花




2006.12.26





 元々さくさく思いつきで打ったメモですが、打ってて楽しかったのでそのままアップしてみました。
 子供から見ると、大人ってなんでも出来そうに見えるけど、本当は大変なんだな!という話。
 『白粉花』の花言葉は『あなたを思う』だそうで、ある意味内容そのまんまです。
 (でも花言葉自体の表してる意味合いは全く違うと思いますが)
 しかしなんで私もウチの沖田も土方に対してこう言いたい放題なのだろうか(愛情が歪みすぎです)。
 ちなみに、この背景にお借りした写真は違う花です