休み時間の教室で、人のリーダーの訳を丸写ししていた手を止めると、目の前の栗茶頭は大きな欠伸を寄越した。
 その整った容貌には似つかわしくない程に大口を開ける様はなかなかどうして豪快だ、ある意味男らしいといえば男らしい。

 この顔を見たのは今日何回目だったか。


「なんだ総悟、寝不足なのか?」
「はァ、まあ」

 髪の毛と同じ、色素の薄い瞳を数回瞬かせる。
 総悟は普段から四六時中惰眠を貪ってはいるが、まだ午前中の休み時間にこうも欠伸を連発するのは流石に珍しい。

「どーせまた夜中までゲームでもしてたんだろ」
「いいえェ、昨日は9時には寝ましたぜ」
「…それも早えな。なら何でんな眠そうなんだよ」
「さあ、なんでですかねィ」

 じゃあ寝過ぎか、という俺の見解を違いますよと否定して、総悟は目を擦った。

「コラ、あんま目擦るなよ」
「んん。ここんところなんか夢見が妙なんですよねィ。だからかも」
「夢ェ?」
「そ。同じよーなの何度も見るんでさァ。土方さんはありやせんかィ?そーゆーの」
「俺は夢自体あんま見ねーからなァ…。妙って?」

 確かに俺は滅多に夢を見ない(又は見ても覚えていない)性質だが、それを言ったら総悟だって似たようなものじゃないだろうか。少なくとも俺は総悟から夢の話なんて聞くのははじめてだ。
 聞かない話だけに興味をそそられて先を促すと、総悟は『ホントに変なんですけどねェ』と前置きを付けてから話し始めた。

「なんか侍とか将軍とかの時代劇みたいな世界にいて、カッコも皆着物やちょんまげなんですぜ。なのに何故か宇宙人も居たりすんの」
「そりゃ確かに変だな」

 それじゃまるで漫画か映画か、少なくともフィクションの世界なのは間違いない。
 まあ夢なんだから何でもアリなんだろうが。

「髷じゃ無えけど俺も日本刀とか持ってたなァ。んで立ち回ったりとかして。そういうトコなのに車とか携帯もあって、妙なところで結構今っぽいんですぜ」
「ふーん、ぶっ飛んでてお前らしいっちゃらしいじゃん」
「どーゆー意味でィ。あ、でも俺結構そこじゃ偉いみたいなんですぜ、なんかの集団でタイチョーって呼ばれてた」
「へえ…」

 どんな集団なのかは知らないが、こいつが重要なポストに就いているとすれば、上も下も周囲はさぞ苦労させられてるんだろう。
 そう思うと、夢の話ながら他人事に思えなかった。
 絶対どんな世界でもこいつは好き放題滅茶苦茶やってるに違いない。


「ま、そんな感じの夢がやたら最近多くって、寝た気がしねぇっていうか。参っちまわァ」


 そう言って、本日何度目かの欠伸を再び。
 にしてもなんでですかねィ、と軽く伸びをして総悟は首を傾げた。


「そりゃお前、アレじゃねえの。この前俺ん家でDVD観たからじゃねえ?」
「何観たんでしたっけ」
「スターウォーズと、鬼平観たいっつって観ただろ」
「あー、そっか。成程」
「でもお前そんな影響受けやすかったっけ?」
「ほら俺ァ土方さんと違って、繊細で感受性豊かだからー」
「自分で言ってる段階で少なくとも繊細じゃねーな」


 伸びの姿勢から、総悟はそのまま机に突っ伏す。

 訳写し終わってねえだろと言って頭を小突くと、舌が回りきってない口調で俺超眠いんで土方さんやっておいて下せえと来た。
 今にはじまった事じゃないが、本当にいけ図々しい。
 ふざけんなだったらもうノート貸さねえぞと返してやると、ケチだなあ土方さんはとか言いながら、億劫そうに再びシャーペンを握った。


「そういやこの夢ね、アンタも良く出てくるんですぜ」
「俺も?どんなだよ」
「今と大して変わりやせんや、やたら偉そうな癖にすっげヘタレなの」
「テメーは一体人をどうゆう目で見てんだァ!」


 でも、俺は楽しかったですぜ
 けらけら笑いながら、上目遣いでこっちを見ながらそう言われたら、それ以上怒ることも出来なくなって、早く写せと言って目を逸らした。




 総悟は無自覚に狡賢い。

 どんな奴なのかまでは分からないが、その夢の中でもきっと俺はこいつに振り回されてるに違いないのだ。







ドリームゲート




2007.06.28







3Zの前世が真選組というネタは結構好きなんですが、
構成力が無いので自作は諦めました、という話。
これは前世現世というよりパラレルワールド的なノリですが。