気が付けば俺はしらない場所に立っていた
 そうして俺の右手は刀の束をしっかと握っていた
 刀はすらり、抜かれていた

 いまの俺に分かるのは それだけ




 此処は何処だろう

 こんなところは知らない
 如何して俺はこんなところに居るんだろう

 嗚呼、可笑しい
 如何して此の場所はこんなにあかいのだろう


 変な世界
 此処は真っ赤だ
 赤いいろだけが矢鱈眩しくて、ちかちかする
 目が眩む


 あかいいろ
 此処には他になにも無い
 いや他には足元に黒い塊がいくつも転がっているけれど
 でも、それだけだ


 どうして、如何して


 分からない
 思い出せない

 如何して俺は 刀を
 どうしておれは、ここに なにを




 …ああ

 はやくかえらなくちゃ
 近藤さんが心配する、あの人は心配性だから
 俺がもどらないっていまごろ大騒ぎしているかもしれない

 土方さんにもまたどやされるかもしれない
 べつに土方さんのお説教なんてこわくもなんともないけれど
 でもあの人一度怒るとかなりしつこいから、それは面倒くさいからいやだし

 もう俺は子供じゃないのに
 あの人たちはいつまでも心配ばっかで、一々大袈裟なんだから

 やっぱりはやくかえらなきゃ
 はやく いそいで


 でも困ったな、どうしよう
 だって此処はあまりにも真っ赤で、他がぜんぜんわからない
 子供じゃあるまいし迷子だなんて
 また土方さんに餓鬼だって馬鹿にされる、そんなの冗談じゃない



 仕方なくふらふら歩いてみるけれど、道なんてない
 わからない、わからない
 はやくもどらないといけないのに、ここには道がない
 あかいいろ以外ほかになにも見えない

 ここはどこ
 果てがない、ずっとずっと先まであかいいろしかみえない

 ぐるぐるぐるぐる
 あかいいろとくろいかたまりばかり
 おなじところをめぐっているようなきがする


 すこし疲れた
 足が棒になったみたいで歩けない
 腕も痺れてしまって刀すら酷く重たい
 俺ははやくもどらなくちゃいけないのにうごけない


 不意に足元の黒いかたまりたちが俺の名前をよんだ気がする

 ああでも、きっと気のせいだ
 だってこんなものがことばを喋るはずがない
 俺のなまえをしっているわけがない
 何故かすごくききおぼえがある声に聞こえたけど、そんなの気のせいだ

 しらない

 ずるずると手足を引き摺るように歩く
 やっぱりどこまで行ってもあかいいろしかない

 ここはいやだ
 ここにいたら俺まであかくぬりつぶされてしまう、気がする


 また黒いものに呼ばれた気がして、下を見る
 よく見ると微かに其れらは蠢いているように見えた
 ずるりと蠢き、また俺をよぶ

 そうご、と

 うるさい、うるさい
 俺はこんなものしらないんだから気安く呼ぶな

 おれのしっている だれかに よくにた こえで

 ざわり、鳥肌
 なんでか俺は堪らなく苛ついて、抜いたままの刀を無造作に振り下ろしていた
 ぐしゃりと鈍いおと
 あかいいろがばたばたと飛び散ったけど、周りの赤と同化してすぐにわからなくなった
 
 また、静かになる


 わからない

 ここはどこなんだろう
 どうやってもどればいいのだろう
 俺はどうやってここへ来たのだろう

 どうしてここはこんなに赤いのだろう
 どうしてここにはだれもいないのだろう


 おれにはわからない




 ねえ、だれかおしえてくれませんか








赤い世界の片隅で




2008.04.29






 狂気っぽいというか、おかしい沖田さんが書いてみたかったのです
 狙った方向性とは著しく別の意味で可笑しくなりましたが(…)