漆黒の鞘から抜いた刃は
 月の光を受けてとても美しい色をしていた


 何度も目にしていた筈の

 だけど今がきっと一等うつくしいに違いありません


「ひじかたさん」


「総、悟?」


 澱みない動きで刃を向けられた目の前の人は
 まるで信じられないものを見るような顔を俺に向けている

 俺の目には少しばかりその表情は滑稽に映ったものだから
 喉からくつりくつりと哂いが洩れる


 ひたり、目の前の人の喉元に光る切っ先を宛がう
 驚愕に彩られた貴方の表情は、より一層深まっていた

 今更そんな顔をしても駄目です
 だって貴方も知っていたでしょう?


 俺の望みを



「何です、隙だらけじゃねぇですか」


 俺が今この手を軽く動かせば、とても簡単に貴方の喉元を掻き切れる

 でも駄目ですそんな事では
 さあちゃんと目を開いて、俺を見て


「さあ、アンタも抜いて」



 俺は切っ先を喉元から離し、今度は貴方の腰の物を指す


 良く刀は武士の魂、等と例えますが
 だとすれば刃を交えて死合うということは、魂を交えるという事になるのでしょうか?

 何て俺たちに相応しい
 貴方と魂を交えるなんて、嗚呼なんて素晴らしいことだろうか

 背中に震えが走る
 此れは武者震いという奴でしょうか


「総悟、お前何を」

「土方さん」



 きらりきらりと煌めく刃
 それはとてもうつくしい、銀色の月の光を反射して
 きっと貴方のその刀も、俺の愛刀と同じように煌めいて美しく

 ひかる


「俺ァ駄目なんです、もう」

 でも俺は更に紅い色を纏えば、是はもっと映えるのだろうと確信しています

 だって刀なんてものは、其の為に作られたのでしょう?


「ずっとずっと堪えて来たんです、でももう誤魔化せねェんでさァ」

 我慢できない、と呟く俺の声は
 自分でも驚くほど掠れていた。

 それは恐怖でか高揚でか
 それとも、恍惚でか背徳でか懺悔でか

 俺の出来の悪い頭では分からないし、知らない
 でももうそんなことどうだっていいのです


 今の俺が望むのは



「ね、今選んで下せェ。俺に斬られるか、それともアンタが俺を斬るか」


 もうそれ以外の選択肢はありませんぜ?と囁く
 俺は今心からの笑みを浮かべているのだろう。だって愉しくて仕方ない
 ずっとずっと望んでいたのですから

 なのに貴方の表情は酷く絶望的だ

 
 どうして?



「ほらはやく、土方さん」


 もう、逃げられません
 同じように、俺も



 行き止まり
 追い詰められた、何処にもいけない

 貴方が居たら、俺はずっと此処から抜け出せない
 でも俺が居たら貴方が此処から抜け出せない


 だって外への出口は
 ひとりのための、ひとつしかないのですから





「さあ、はじめましょう?」




 微笑んで貴方に告げる
 はじまりで、おわりとなる言葉を

 ひとつ






『迷宮の出口』





2008.06.15







今までもネタメモ等でちまちま打ってたおかしくなった沖田
それに加えて驚愕する袋小路な土方です(酷い…)
オフで出した『戯言と繰言』の延長上みたいなイメージでした。

なんでこういう話は直ぐ打てるんだろう…