誰にも見られたくない
誰も俺を見ないで欲しい
お前なんか知らないと、どうなっても知るものかと
放っておいてくれればいいのに
それでも伸ばされる
息が詰まりそうなほど、やさしい手が
お願いだから 触れないでいて
其の手に
姉上が死んで数日が経った。
直後はやっぱり呆然としていたらしい俺を近藤さんが補佐してくれて、きちんと葬儀やら何やらを一切合切を取り計らってくれた。普段はストーカーやらで、結構色々やらかしてるけど、やっぱりあの人はそういう所はしっかりしていて、ちゃんとした大人なんだなと再認識させられた。
姉上は武州ではなく、ここ江戸に埋葬をして貰うことになった。
江戸に墓を建てて貰えることになったのは本当に有難かった、いくら故郷でももう身寄りも誰も居ない場所に姉上をこれ以上ひとりにはしたくなかったから。
俺は身体の弱い姉上をずっと一人きりにしてしまっていたから、今更そんなのただの欺瞞なんだろうけど、それでも。
葬儀のあと、俺自身としてはいつものように隊務に明け暮れていた方がよっぽど良かったけど、俺を気遣ってか数日の非番が与えられた。
近藤さんにはゆっくり休めと言われたけど、今休んでなにか変わる訳でもないのにと思う。
起こってしまった事は変わる筈なく、ただ受け入れるしかない。
心のどこかに大きな穴が開いてしまったような、埋めようもない喪失感。
そんな感覚もただ、受け入れていくしかないんだ。
何処かから時刻を告げる鐘の音が聞こえてきて、今何刻だろうと思う。
近藤さんに休んでろと非番を言い渡されたけれど、屯所に居ても周りが気を遣い過ぎるくらい気を遣ってくるのがいっそ煩わしく感じたから、散歩と言って屯所を出てきた。
だからと行って特に行くあても、行きたいあてもあるわけじゃなかったから、ただぼんやりと河原に座って過ごしただけだった。
視界の先に映る水面に夕日がきらきらと反射して眩しい。この川は武州の方に繋がっているんだったっけかとか、普段は考えもしないことが頭をふと掠めた。
そろそろ日が暮れる。
屯所を出る間際、山崎に見付かって散々一緒に行くと言われたけれど、少し一人になりたいのだと言って出てきたから、そろそろ戻らないと騒ぎ出すかもしれない。普段から山崎はどうも過敏な位に俺の事を気遣う節がある。
戻らないと、と頭ではそう思うのに冷たい地べたに座ったまま、身体を動かす気になれない。
このまま戻らなかったら、きっと近藤さんも山崎も他の皆もすごく心配するに違いないと分かるけど、あの場所には今いたくない。
組の皆に気を遣われるのは本来なら有難いと思うべきなんだろうけど、今はなにもかもが嫌で煩わしくて仕方ない。
戻りたくない
かえりたくない
そんな風に思ったのははじめてだった。
真選組に、近藤さんに、隊士の連中に不満があるわけじゃない。
今更仕事が嫌になったわけでもない。
ただ、今は俺を知っている人間に会いたくないと思った。
誰も俺を見ないで欲しい
放っておいて欲しい
ああ いやだ
水面を見つめたままいっそこのまま何処かへ行ってしまおうか、なんてする筈もない事を考える。
でももしそうしたら俺はどうなるんだろう、追っ手がかかって捕まって?そしたらやっぱり脱走てことになって、法度に従い切腹になるんだろうか。
そうなったら誰が介錯をするんだろうなんて事まで考えたけどやめた、だってそんな事はさせないだろうから。
きっと アイツが
「馬鹿じゃねえの」
その考えはきっと間違っていないと分かるから、それがより一層俺の気分を滅入らせた。
なんだか苛々して、それを誤魔化すように俺はぐしゃりと自分の髪を掻き毟った。
放っておいてくれればいいのに
冷たく突き放して、上辺の言葉だけじゃなくて心から『お前なんか知らない、どうでもいい』って言ってくれれば、思ってくれればどんなにか
そうしたら俺だって、心の底から憎む事が出来たのに
全部をアイツのせいにして、そうして嫌って嫌って、憎むだけ憎んで
その方がずっとずっと 楽だった
なのにそれすらさせてくれない
如何して
どうして俺は 此処にいるんだろう
どうして俺は こんなにちっぽけで
なにもできない、どうしようもない餓鬼の侭なんだろう
ひとりじゃ 立ち上がることもできない
結局
件のことにしても、俺の目を覚まさせてくれたのは近藤さんで
俺の手を引っ張って、立ち上がらせてくれたのは万事屋の旦那で
そして俺が倒れてしまわないようにと、影で支えていたのは−
「…どっちかに、しやがれってんだよ馬鹿野郎」
ぽつりと吐き出す言葉は弱々しくて、まるで自分のものじゃないみたいだった。
→其の弐
2006.11.04
なんかもう沖田くんが別人と化しててスイマセンというしか。orz
(誰だこのキングオブ後ろ向きネガティブ大将なのは…)
更に土沖といいつつ土方がミジンコ程も出てなくてスイマセ…!
挙句続いたりします。